前提を変えて、揺るぎない態度を育てる。
アメリカでは1960年代後半に、『どんなスピードでも自動車は危険だ』という本がきっかけとなってシートベルトを車に標準装備することを義務付ける法律ができました。
この結果、事故が起こった時の死亡率が低下したそうです。
これだけを見ると「シートベルトを装着させることにはメリットしかない」と思われるかもしれませんが、実は多角的な見方が必要です。
当時の人々は、シートベルトを付けてさえいれば大丈夫だと思い、安全運転をしようという気持ちが減少したそうです。
結果として、たしかに死亡率は減少したものの、事故の件数が増加し、歩行者の死亡率を増やす傾向を持ったということです。
つまり、「シートベルト」という安全装置があるおかげで、安全運転をしようとしなくなったのです。
さて、このような話を聞いたときに「いや、自分はシートベルトがあるから安全運転しないなんて思ったことがない」と主張するドライバーの方も多いでしょう。
これは、当時の人々が安全志向に欠けていて、現代の人々が安全の意識が高いというわけではありません。
単に、「シートベルトが当たり前のように車についているから」です。
いまどき、シートベルトのない車なんてありえない、そう思っている人がほとんどなのではないでしょうか。
そして、さらなる安全装置として「自動停止システム」がこれから全ての車に装着されるようになると、今度は当時の人々がシートベルトに「新しく安心」するようになったように、現代の私たちも「自動停止システムがあるのなら」とスピードを出したり危険運転をしたりするようになる可能性があるのです。
私たちは、何かが「当たり前」「前提」になっているとき、それを理由にして何かの行動を促進したり抑制したりすることはありません。
しかし、何かが「いつもと違う画期的なもの」という認識をもったとき、それを理由にして今までとっていた行動を変化させるケースがあるのです。
これは勉強についてもいえます。
勉強することが当たり前という家庭に育った子供たちは、そもそも「なぜ勉強するのか」という疑問を抱くことなく、勉強をし続けます。これは、その子供が賢いからではなく、単に「そうだから」と思っているからにすぎません。
本当に行動を変化させたいのであれば、その「してほしい行動」が当然すべきもののように思うシステムが重要なのです。